


独特の作風や本音丸出しの歯に衣着せぬ物言いなどから、世の女性たちの大きな支持を集める漫画家の西原理恵子。そんな彼女の自叙伝的作品を実写化した映画「女の子ものがたり」が、8月29日に全国公開される。キーワードは「女の子の数だけシアワセがある」。西原理恵子にとっての正しいオンナの生き方とは?
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高原菜都美(深津絵里)は36歳の漫画家。しかし、スランプのため筆が全く進まず、昼間からビールを飲んではソファーでうたた寝する始末。そんなとき新米編集者の財前(福士誠治)がこんな一言を投げかける。「先生、友だちいないでしょ?」――。その言葉に菜都美は、かつて故郷で青春を共にし、自分の全てを受け入れてくれた2人の女の子、みさちゃんときいちゃんを思い出す。今も自分を励ましてくれているあの頃。そして、現在につながる1本の道……。決して1人で歩いてきたのではないことを知った菜都美の心に、ある変化が起き始める。 |
◎女の子ものがたり ![]() (C) 2009西原理恵子・小学館/「女の子ものがたり」製作委員会 |

――映画をご覧になっての率直な感想を。
西原理恵子:なんだか最初からちょっと泣いちゃったんですけど(笑)。私にとってあそこは絶対帰りたくない場所だけど、そこにいる友だちはすごく愛おしいわけです。どんどん不幸の階段を降りて、八方ふさがりになっても、しっかり地に足をつけて必死で生きてる子がたくさんいる。だから、今どうなっているのか、すごく心配だし、やっぱり幸せになっていて欲しい。そんな色々な感情が入り乱れました。
――ご自身の体験から生まれた作品ですね。
西原理恵子:王子様が来ましたとか、立派な偉人になりましたとか、夢みたいな話は描きたくなかったというのはありましたね。そんなことは、子供が見てもウソだってわかっているわけでしょ? でも、大嫌いがないと大好きもないし、不幸がないと幸せはわからないじゃないですか。青春の1番みっともないところっていうのかな、そういう状況があって見えてくることがたくさんある。

――町から出て行った女の子は2度と帰ってこない……。
西原理恵子:女性にとって展望が開けない町って日本にもまだまだたくさんあると思いますよ。「女に人権ないんじゃないの?」と思っちゃうような(笑) 私の周りのお母さんたちは人生を封じ込められて、ただただ文句ばかり言ってた。見本や目標となる女性なんて1人もいなかったですからね。男は偉そうに吹くだけ。女の子には、嫌なテリトリーから出て、しっかり自分でご飯を食べていって欲しいと思う。
――西原さんはそれを実践した。
西原理恵子:「みすみす不幸になるなら、こんな所よりどこかに行って不幸になった方がいいじゃん」、っていう発想で私は出て行ったんですけどね。黙ってエイリアンが来るのを待つ、みたいなのは嫌だったし。でも、最初に歌舞伎町に勤めたときは、怖かったし、田舎よりもっと不幸な場所があることを知りました。「こりゃダメだ」と思うようなこともたくさんありました(笑)

高知で過ごした約20年、無頼派カメラマンとの2度にわたる結婚生活、そして別離。時には過激ともいえるコンセプトを掲げての活動は周囲を驚かせ、話題を振りまいてきた。西原理恵子の44年の半生は、1人の女性が体験するにしては少々重すぎない?と思えるほどのドラマチックなエッセンスに満ちている。しかし、こうした経験が彼女の作品や活動を支えてきたことは間違いない。女であることを意識しながら、ひとりの人間として彼女はしっかり自分の足で44年を歩んできた。

――西原さんの考える「女の幸せ」とは?
西原理恵子:幸せに男も女もないけど、少なくとも女の方が得だと思いますよ。仕事も、家庭も、子供も、全部総取りできる。男に比べると選択肢がすごく広い。特に仕事じゃ男に絶対負けないんじゃない? 男の人って、すぐ折れるし、弱いですもんね(笑)。欲しいものを全部持てるのだから、女としての人生はすごく楽しいはず。もし生まれ変わっても、私は絶対に女として生まれたいですね。
――でも女はくじけがち。そんな時は?
西原理恵子:働き続けることだと思います。たまに休むのもいいけれど、一度仕事をやめたら「次」がなくなる。保育園代に全部のお給料が消えても仕事は止めない方がいい。今の日本、辞めた会社にはなかなか戻れないけど、子供はそのうち自分の足で勝手に歩き始めるし、保育園なんてすぐ卒園しますよ。夫は倒れるかもしれないし、会社も潰れるかもしれない。浮気だってするかもしれないんですから(笑)。そういうときにお母さんが仕事持っていなかったら大変なことになりますよ。



――離婚しても大丈夫ですね。
西原理恵子:離婚するにもお金は必要ですよ(笑)。お金がなければ親の介護もできないし、着飾ったり、美味しい物を食べたり、子供の服だって自分のお金で買いたいじゃないですか。そんな自由を自分から絶対に手放さないで下さい。自由は有料。女性としての自由は働かないと手に入らない。それはすごく言いたい。
――最後に幸福になりたい全てのエンビー(envy)読者にメッセージを。
西原理恵子:幸せの敷居を上げないこと。素敵な実業家の恋人とドレスを着ている、とかではなくて、自分が健康で子供がそばいるみたいな、そんなことを幸せの基準にするべきだと思いますね。そもそも基準を上げちゃうと心配で仕方がないでしょ。ウエストが60センチじゃないと幸せじゃないとか(笑)。働くことのありがたさというか、やりがいよりも、愛する子供の将来を守るために働くんだ、とか、基準を変えて欲しいですね。
――ありがとうございました。
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1964年高知県生まれ。88年に週刊ヤングサンデー「ちくろ幼稚園」(小学館)で漫画家デビューし、週刊朝日に連載したグルメレポート「恨ミシュラン」で注目を集める。97年に「ぼくんち」(小学館)で文藝春秋漫画賞、さらに「毎日かあさん」(毎日新聞社)が文化庁メディア芸術祭賞(2004年)、手塚治虫文化賞(短編マンガ部門、05年)を受賞。今年4月から同作品のテレビアニメ化がスタートしたほか、6月には「いけちゃんとぼく」が映画化されるなど、09年は次々と作品が映像化される「サイバライヤー」ともいえる様相を呈している。 |